「完全ワイヤレスもここまで来たか」約4.5万円の衝撃、Noble Audio「FoKus PRO」

すっかりイヤフォンの“定番”になった完全ワイヤレス。音質の良い製品や高いノイズキャンセリング性能を備えたモデルも増え、消費者としては嬉しい限りだ。だが、ポータブルオーディオ好きとしては、有線イヤフォンのように“とにかく音質を追求した圧倒的な製品”というのは存在せず、趣味のオーディオとしてはちょっとツマラナイというのも事実だ。 

そんな事を考えていた矢先、とんでもない完全ワイヤレス(TWS)が現れた。手掛けたのは、現在まで続く“完全ワイヤレス高音質競争”の火付け役と言っていい、あのNoble Audio。モデル名は「FoKus PRO」。12月17日発売、価格はオープンプライスて、高価な約5万5000円。結論から先に言うと、TWSとしてはかなり高価だが、とんでもない音質に仕上がっており、ついに“趣味としてのTWS時代”の到来を予感させる、超“攻めた”イヤフォンになっている。

Noble Audioが生み出したTWSの新たな流れ

TWSの登場当初からAV Watchを読んでいただいている人であれば説明は不要かもしれないが、それまで“左右を繋ぐケーブルが無い”という利便性の高さをウリにしていたTWS市場に、Noble Audioが「FALCON」を投入したのが2019年。

Noble Audioと言えば、10万円以上のイヤフォンもラインナップにゴロゴロ存在する高級ブランド。つまり、ハイエンド・ポータブルオーディオでお馴染みのメーカーが、ある意味でハイエンド・ポータブルオーディオの“真逆”と言えるTWS市場に突然参入した事が話題になったわけだ。そして、投入した「FALCON」の音質も高い評価を受けた。 

その後、これまでTWSを投入してきた各社も高音質化を追求するだけでなく、Noble AudioのようなハイエンドなオーディオメーカーがTWSに参入する流れを生み出した。Noble Audio自身は、2019年に「FALCON」(発売当初の実売16,800円前後)、2020年10月に「FALCON2」(同13,900円前後)を投入。さらに、2020年12月には「FALCON PRO」(同26,900円前後)を発売。

そして今回登場した「FoKus PRO」は、名前からわかる通り「FALCONシリーズ」ではなく、新たな、音質最優先設計の新たなラインナップ「FoKus」シリーズのスタートを飾る製品となっている。 

NC無し、防水無し“音質が全て

FoKus PROとFALCON PROの違いはいろいろあるのだが、何よりもまず、実物を手にすると「まったく違う」。詳細は後述するが、FoKus PROの方がFALCON PROよりも一回り大きく、さらにフォルムがより有機的な、カスタムIEMっぽいフォルムになっている。 

それもそのハズ、FoKus PROはもともとNoble Audioの設立者、“Wizard”ことジョン・モールトン氏が、Nobleのカスタムイヤフォンの中にTWS用のモジュールを組み込んだらワイヤレス化できるのかな? と、半ば遊びで作ってみた試作機がキッカケとなり、開発がスタートしたという。 

つまり、スタート位置が「いい音のTWSを作ろう」ではなく、「Noble Audioの有線カスタムイヤフォンをそのままワイヤレス化してみよう」というのがFoKus PROというわけだ。“百聞は一見にしかず”で、FoKus PROのつるつるとした質感を手で感じていると、そんな“イヤフォンとしての格の違い”みたいなものを感じる。実際に、これまで培ったカスタム・ユニバーサルイヤフォンのノウハウを使った3Dプリンティング技術で、この筐体は作られているそうだ。

内蔵のユニットは、初代FALCONとFALCON2が同じダイナミック型ドライバー1基のみだったのに対し、FALCON PROは、高域用に米Knowles製のBA(バランスドアーマチュア)「SRDD」(BA×2基で構成)、中低域用に6mm径ダイナミック型の「Tri-layered Titanium-coated Driver (T.L.T. Driver)」を搭載した、ハイブリッドタイプだった。 

FoKus PROも、同様にハイブリッドタイプで、中高域用にKnowles製BAドライバー2基、低域用に8.2mmのダイナミックドライバー1基を搭載。構成としてはFALCON PROと同じだが、ダイナミック型ドライバーがより大口径化している。 

FoKus PROがスゴさはここからだ。 

まず、アクティブノイズキャンセリング機能だが、5万円近いTWSなのに、なんと搭載していない。これは決して、「搭載するのが面倒だったから」とか、そんな理由ではない。FoKus PROのメインテーマである“音質最優先”を追求した結果、あえて搭載していないのだ。 

ご存知の通り、アクティブノイズキャンセリング(ANC)というのは、イヤフォンに幾つもマイクを内蔵し、外部の騒音や、耳まで侵入してきたノイズを検出。その逆位相となる信号を生成し、音楽と一緒に再生すると、ノイズが打ち消され、静かな空間で音楽が楽しめる……という技術だ。 

だがこのANC、Noble Audioによれば、“高音質再生”にとって障害となりうるそうだ。 

例えば、BluetoothのSoCに搭載しているアンプでユニットをドライブして音楽を再生するわけだが、ANCを使うと、騒音をキャンセルする信号も一緒に再生しなければならないので、アンプの能力を音楽再生だけに100%フルに使うことができない。 

さらに、ノイズを検出するためのマイクもいろいろなところに内蔵しなければならないのだが、ただでさえ小さなボディにSoCやらバッテリーやらユニットやらアンテナやらを内蔵しなければならないTWSにおいて、スペースの確保というのは悩ましい問題となる。マイクを内蔵しなければならないのでユニットを大きくできないとか、音質的にベストな場所に配置できない……といった問題も起こりうる。 

そういう利便性と音質と天秤にかけざるを得ない問題を“音を良くするために、いっそ全部搭載しない”と、凄まじい割り切りで、本当に“高音質全振り”で作られたのが、このFoKus PROというわけだ。 

もっと言えば、最近のTWSでは珍しくない“防水機能”も「音響設計に制約が出る」という理由で搭載していない。もはや“漢らしい”。普通のメーカーであれば、「いや、この価格帯でノイキャン無しなんてお店で売れませんよ」とか「今どき防水無しはありえないでしょ」とか、社内でいろいろ言われてボツになりそうなものだが、本当に“音質全振り”のまま発売してしまうのが、実にピュアなポータブルオーディオメーカーらしくて痛快だ。 

ちなみに、価格もTWSとしては高価で、代理店も売れるかどうか心配していたそうだが、販売店に事前にサンプルを聴いてもらったところ、あまりに音が良いということで担当バイヤーから大量発注があり、初回入荷分は既に完売しているというから驚きだ。 

また、“高音質全振り”と言っても、外部のノイズを放置しているわけではない。前述のように、カスタム・ユニバーサルイヤフォンのノウハウを用いたシェル形状にすることで、物理的な遮音性を高めている。さらに、付属のイヤーピースも従来モデルから種類が増え、ダブルフランジや横長のものなども同梱。より耳の形状にフィットしたものが選べるようになっている。これらの工夫でそもそも騒音が入ってこないようにすれば、ANCが無くても大丈夫というスタンスだ。多くの有線イヤフォンが、ANCを搭載していない事を考えれば、ある意味“当たり前”の考え方とも言える。 

イヤーピースは通常タイプに加え、横長のものやダブルフランジタイプも付属。より耳にフィットするものが選べる

なお、BluetoothのコーデックはSBC/AAC/aptXに加え、aptX adaptiveもサポート。高音質と低遅延を両立させるもので、最高で48kHz/24bitの送が可能だ。 

また、TrueWireless Mirroringにより低遅延、接続性、バッテリー持続性を向上させており、連続再生時間は7.5時間(50%音量時)となっている。 

TWSに関しては、接続安定性も重要となるが、FoKus PROは海外で既に発売されているモノより、コストはかかるが、日本向けモデルはさらに電波の出力を強化した特注仕様となっており、FALCONシリーズと同等の接続安定性を確保しているという。実際に、混雑する時間帯のJR新宿駅ホームをFoKus PROで音楽を聴きながら何度か往復してみたが、途切れる事は無かった。 

混雑する新宿駅ホームでも音楽を聴き続けられた

本体も高級感があるが、充電ケースも金属製で高級感がスゴイ。蓋の開閉動作も高精度で気持ちが良い。市場の人気モデルとして、ソニーの「WF-1000XM4」が存在する。このイヤフォンも、低音再生能力が高い製品だが、聴き比べるとFoKus PROの低音の方がさらに深く、重く、凄みがある。WF-1000XM4も、ピュアオーディオライクなバランス重視の良いTWSなのだが、FoKus PROの方が間違いなく、より“ハイエンドオーディオの香り”がする。

アプリでサウンドの最適化、aptX adaptiveにも対応

サウンドに興奮して細かい話をすっ飛ばしてしまったが、FoKus PROには、このモデル用にアプリ「Noble FoKus」が用意されている。できる機能は、イコライザー、本体操作のカスタマイズなど、比較的シンプルなものだが、ユーザーにマッチするようにサウンドをカスタマイズするパーソナルモードも用意されている。 

テストを開始すると、各帯域でテストトーンが流れ、そのトーンが何回鳴ったかを、クイズっぽく回答していくタイプ。測定後にこのパーソナルモードをONにすると、ユーザーの耳の特性に合わせて、あらかじめ補正したサウンドを再生してくれるというわけだ。

実際に試してみると、パーソナルモードをONにすると、私の場合は低域から高域まで、全体的に音圧が上がったように感じられ、細かな音がより聴き取りやすくなった。情報量の低下はあまり感じられないので、常用してもOKだろう。 

ただ、デフォルトの状態でスゴイ低音が出ているので、さらに音圧がアップすると、個人的にはちょっと“過多”な印象。例えば、電車の中など、ある程度の騒音がある環境で聴く場合はパーソナルモードONの方が聴き取りやすいのだが、歩いている時や、室内で使う時は、パーソナルモードOFFの方が好みだった。

TWSから有線へ、ではなく“TWSへ”というステップアップ

聴く前は、「完全ワイヤレスに5万円?」と、やや懐疑的だったが、音を体験してしまうと「いやぁーこれはマイッタな」と頭を抱えるイヤフォンだ。 

特に、低音の深さ、キレの良さは、既存のTWSを超えたクオリティで、「やっぱり低音は有線イヤフォンだよね」とか「良いDAPでドライブしなきゃ、この低音は出ないよね」と言っていた低音が、FoKus PROから出てしまっている事実に驚く。 

とはいえ、音質のみに注目した場合、電源のリッチさやパーツの大きさなどで、DAPの方がまだまだ有利だ。それは間違いない。だが、TWSというのは「ヘッドフォンアンプとイヤフォンが一体化した製品」であり、それは、メーカー側が“このイヤフォンに最適な駆動をするアンプ”にチューニングして、セットで販売できるという強みもある。 

つまり、有線における「どんなイヤフォンを接続するかわからないDAP」や「どんなDAPでドライブされるかわからないイヤフォン」と比べた場合、マッチングとしてTWSの方が有利な面もある。FoKus PROを聴いていると、その利点を最大限に発揮したサウンドだと感じる。 

今までは「TWSでイヤフォンに興味を持ち、より高音質を求めるなら有線イヤフォン/DAPへ」という話だったが、FoKus PROはその図式を破壊する風雲児的なTWSになるかもしれない。値段の事はいちど置いておいて、ともあれ一度聴いてみて欲しい。「TWSもここまで来たか」と思うはずだ。 

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